クリステンセン論文集の第一章です。「破壊的イノベーション」の基本論文です。優良企業であればあるほど、破壊的イノベーションには対処できなくなるという結論で有名です。また、その理論の応用範囲も想像以上に広く、およそイノベーションを考える人であれば、知っておくべき内容でしょう。
イノベーションのジレンマ
―大企業が陥る「破壊的技術」の罠― 1995年7月
既存技術と破壊的技術の例―馬車と自動車、真空管と半導体、メインフレームとPC、フィルム写真とデジカメ、デジカメとスマホ・携帯の写真機能、固定電話と携帯電話など
1. ビジネス界では業界大手が技術や市場の変化に対応できずに失敗するパターンが良くみられる。多くの場合、それらの企業は既存顧客の意見に耳を傾け、彼らの要求に積極的に答えようとした結果、後に手痛いダメージを被った。
2. 優良企業には合理的・分析的な意思決定プロセスがある。そのプロセスでは既存市場の顧客ニーズに注いでいる経営資源をよくわからない市場や顧客に振り向けることはできない。
3. 優良企業の多くは、初めのうちは主要顧客のニーズに合致しない新技術をなおざりにすることで後に大きなダメージを受けた。
4. 優良企業に破壊的ダメージを与える技術変化には二つの特徴がある。①新技術の製品性能が当初は低く、既存顧客はこの性能の違いに価値を認めない。 ②この新技術が後に既存顧客も価値を認める性能に達するので既存市場が浸食される。
5. 破壊的技術には主要顧客が価値を認めてきた特性とはまったく異なる特性があり、既存顧客が性能面で重視する点が劣ることが多い。そのため既存顧客のニーズに対応すればするほど破壊的技術をなおざりにせざるを得なくなる。
6. 当初は既存製品に劣り、新市場でしか通用しない技術が、やがて既存市場で業界リーダーを脅かすようになるのはなぜか。一般的に破壊的技術は優良企業にとって経済的魅力に乏しい。一方、新規参入者は高コスト構造ではないため、新市場は十分魅力的。こうした企業は新市場に足がかりを築き、その技術性能が向上させて、高コスト構造の大手企業の縄張りである上位市場を視野に入れるようになる。
7. 優良企業は既存顧客のニーズに合致しない破壊的技術の将来性には注意しなければならない。しかし、この流れを認識することと、状況を打破する方法を見つけることは別物。多くの業界では優良企業が破壊的技術に対処できず同じ失敗を繰り返している。
8. 問題は過去の成功体験をそのまま繰り返すことにある。成功を収めた企業ほど既存顧客が望まない技術や利益率の低い案件に資源を傾けることができない。
9. 破壊的技術が登場した時に優良企業はどう対処すべきか。まずは真の脅威となる破壊的技術を見極めること。ただし既存の重要顧客に意見を求めるのは間違い。破壊的技術の顧客は既存顧客が求めるよりはるか下の性能を求めている。彼らの視点は既存顧客とまったく違う。
10. 重要なのは破壊的技術が初期の低い性能からどの程度の速度で性能向上するかを知る事。それがいつ主力市場で求められる性能に追いつくかを見極める必要がある。
11. 破壊的技術を見極めるには、顧客は誰か、どのような顧客がどのような製品性能を重視するかを想像してみるとよい。
12. 優良企業が新技術を扱うには自社から独立した組織に行わせるべき。破壊的技術の利益率は当初は低く、また新規顧客特有のニーズに応える必要があるため。
13. 新規技術にうまく対応し、新市場で成功を収めても主力事業に統合しない方が良い。破壊的技術は将来的に既存技術を侵食する可能性があり、同一組織でマネジメントするには向かない。
14. 破壊的技術で成功するには、小規模の注文でもやる気になり、その存在すら定かでない市場にコストをかけずに参入し、未開拓市場でも利益が出るように固定費を抑えた組織で戦略的にマネジメントすることが必要。
論文では事例としてHDD業界における著しく短サイクルでの破壊的イノベーションの発生を取り上げています。数年単位で覇権を握る企業が入れ替わる業界は多くはないと思いますが、あらゆる業界において起きうる事態だと考えられます。
この論文集の破壊的イノベーションという視点は非常に応用範囲が広く、後に続く論文もこのモチーフを発展させています。