宮田識氏はキリンビバレッジの『生茶』のリニューアルを主導した一流クリエイティブディレクターです。佐藤可士和氏、奥山清行氏、佐藤オオキ氏、水野学氏など一流のクリエイティブディレクターの著書で強調されていることはよく似ています。いずれもデザイン技術よりもものの見方やコンセプトについて多面的に語っています。
クリエイティブディレクターの視点はあらゆる仕事の定義に有益であると思います。たとえばISO9001の品質の定義を深掘りするにはこうした視点が不可欠で、それなしでは柔軟性のないシステムになり形骸化しやすいと思います。
宮田識『Draft宮田識 仕事の流儀』抄録
1. 準備こそ勇気の源。準備が足らないから弱くなる。勝負するための手立てを持っていなければダメ。仕事で人にあう時にはあらゆる準備が必要。
2. 今日会う仕事相手と何を話すかを考える。それにはこの仕事に対して自分がどうしたいのかを整理する。当然そこには自分の気持ち、生き方まで入ってくる。
3. まずは相手を知る。会いに行くときは自分が知りたいことは何か?それを引き出すにはどんな質問をすればよいかを考える。
4. レイアウト、色を付ける、形を決めるという一般的なデザインのイメージにとらわれない。表現としてのデザインにとらわれすぎない。
5. 若いデザイナーには勇気が必要。流ちょうに話すことではなく、自分の思いを言えるかどうかが大切。震えてもいいから最初の一歩を踏み出す。
6. 努力がなかなか実を結ばず、何かのきっかけで突然伸びることがある。きっかけをつかむには常日頃からアンテナを張っていなければならない。
7. きっかけはいつ来るかわからない。若いころにチャンスが来る人もいれば40歳、60歳でチャンスをつかむ人もいる。
8. 「おかしい」「気になる」という感覚が大事。こうした気づきから知識が広がり、それらがつながり、自分の中の世界観が出来てくる。
9. デザインはジグソーパズル。大勢がそれぞれの力を合わせ、そのすべてがうまくはまらないといけない。
10. 狭義のデザインとは色、形、文字などの美しさ、見え方や伝え方を考えるスキルとしてのデザイン。広義のデザインとは、幸せな生き方や理想の社会について考えること。色や形の前にまず世界観がある。
11. デザインとは何かという前提が違えば成功と失敗の定義も違ってくる。
12. 毎日の仕事に振り回されていてはダメ。スポーツ選手は試合以外でも厳しい練習をしている。それに比べてデザイナーは甘い。「どれだけ練習したか?」ということ。
13. 人工知能の進歩でデザインを取り巻く状況は激変した。「デザインとは何か?」を改めて自分に問いかける時期にきている。
14. デザイナーはデザインの基本的な歴史や技術、知識をもっとしっかり学んだ方が良い。原則を知ることはとても大事。
15. たとえば、デザイナーの仕事の原点である「文字」の書体成立の経緯すら知らない人が多い。原則を知らずに応用に走る傾向がある。
16. デザイナーはデザインのプロとして基本を見なおすべき。きれいな線が引く、色を合わせる、という基本に立ち返って学び直す。
17. こなすだけの仕事にならないためにクライアントとの関係づくりは大切。顧客企業には目的があり、制約条件がある。顧客企業の目的を深く理解して良い関係を作る。
18. 表現したいことと実際にできることは違う。技術が足りなければ勉強するしかない。勉強といっても難しいことではない。見て、読んで、聞いて、書いて、そこから何かをつかむ。ただし続けることが大事。
19. どのデザインがいいかも大事、どう決めるかをデザインすることも大事。デザインが決まらない理由は、決めるべき人やキーマンにリーチ出来ていない状態。
20. 協調性を持つ若者は伸びる。自分の居場所を自然に見つけることができるから。協調性を持つ人は自分の役割を自然に探しだす。
21. 聞くことが個性を作る。質問の仕方で答えは変わる。聞くことが積み重なって自分の個性や表現が作られていく。
22. ブランディングで最も大切なのは作る人の気持ち。
23. 相手を知る努力を怠っていたらいい仕事はできない。
24. 一発OKが一番良いが、ダメ出しは気づきのチャンスでもある。
25. 目を肥やすにはどうすればいいか。まずは数多くの事例を見ること。
26. デザインする力は誰にでも必要。工場で働く人、売り場の販売員、会社の経営者もデザイナー。
27. 誰もが何かをデザインしている。自分が何をデザインするのかを考える。
28. 今必要なのはビジネス全体をデザインし直す視点。
29. 信長も空海もクリエイティブディレクターだった。
30. クリエイターにとって感性が重要なのは間違いないがニーズや市場を理解する理性も大切だ。
31. 特にクリエイティブディレクターは左脳的な部分が重要。今後はデザイナー出身ではない左脳タイプのクリエイティブディレクターがたくさん増えるかもしれない。
32. 基礎となる思想・考え方と優れた感性を持ち合わせていればクリエイティブディレクターに絵をかく技術は必要ない。
33. 感性を磨くには最高の「本物」をたくさん見るとよい。
34. クライアントの考えがまとまっていない場合も多い。だがクライアントとデザイナーがお互いに分かり合っていればこのやっかいな前工程をうまく処理できることもある。クライアントとデザイナーが一緒に考えることが大切。
35. 自分が今考えていることが間違っているかどうかを知るには判断材料がたくさん要る。だからもっと勉強してほしい。「なぜもっと本気でやらないんだろう」と思える人が多い。
36. 勉強しないのに独立しようとするデザイナーがいる。「苦労は覚悟の上です」というがデザイナーとしてしなくていい苦労はする必要がない。不要な苦労を選び、必要な苦労を避けるのはなぜか。
37. ルールや制約を挑戦しない言い訳にしない。特にクリエイターの側が自分で勝手なルール、限界、壁を設定することが怖い。クライアントが深く考えずに言ったことをうのみにしてしまう若い人が多い。
38. 成功するまでやり切ると結果的に失敗が無くなる。
39. 好きなことを突き詰める。そこから自分らしさが生まれる。
40. 「表現」より「考え方」にこだわる。考え方は世の中の10歩先を行くけれど表現は1歩先ぐらいでちょうどいい。
41. いい仕事をするには発言力が必要。勉強しなければ発言力は持てない。発言力とは提案力のこと。発言力がなければ言われるがまま仕事をこなすだけになる。
42. 提案力とは見聞きし学んだことをつなげたり広げたりして何らかの方向性を見つける力。勉強しなければ提案力は養えない。
43. 良いデザインをするためにはクライアントと対等のパートナーになる必要がある。複雑なことをわかりやすく整理してくれる、本質をズバリと言ってくれる、解決策を提案してくれる。こんなデザイナーならばクライアントは喜んで付き合ってくれるはず。
44. 相手のことを知るために一生懸命勉強し準備する。自分の考えをしっかり持つ。時には相手と戦う。それでこそクライアントと対等になれる。それには普段の生き方が大事。
45. 良いデザインとは何か。社会に必要とされ役立ってこそ良いデザイン。
46. 一日一日、一つの仕事をやり切る、やり尽くす。その生き方そのものが仕事の流儀になる。