この数年で「デザイン思考」という言葉が一気に広がりビジネスシーンの常識になりました。
デザイン思考は米国のデザイン・コンサルティング会社のIDEOの提唱するコンセプトです。そこでIDEOのCEO、ティム・ブラウンの著書を4回に分けて整理したいと思います。
デザイン思考は知識労働の一般的なフレームワークになる可能性を秘めています。
ティム・ブラウン著『デザイン思考が世界を変える』抄録(1)
1. 「デザイナー」は製品が完成すればプロジェクトを終える。全体を見据える「デザイン思考家」は販売店に対して販売戦略まで立案する。
2. デザイン思考家は本来デザイナーが真っ先に解決すべき問題。製品の外観などのデザインは開発プロセスの後半に先延ばしする。
3. デザイン思考家はプロセスを進める唯一の最善策など無いことを知っている。
4. 「着想」‥ソリューションを探るきっかけになる問題や機会、「発案」‥アイディアを創造・構築・検証するプロセス、「実現」‥アイディアを市場へと導く行程。
5. デザイン思考は探求のプロセス。途中で必ず予期せぬ発見がある。
6. IDEOには「失敗は成功への早道」という合言葉がある。
7. 制約を喜んで受け入れるのがデザイナー。最良のデザインは極度の制約の中で生まれることが多い。
8. 美術館のショップで売れるおしゃれな商品より、安価なキッチン用品や既製服を作る方がはるかに難しい。
9. アイディアには「技術的実現性」「経済的実現性」「有用性」の三つの制約がある。デザイン思考家はこの三つのバランスを取ろうとする。
10. 三つの制約条件は対等なわけではない。
11. 基本的な人間のニーズに重点を置くことがデザイン思考の特徴。
12. テクノロジーへの依存は非常に危険。技術的イノベーションが投資した時間や資源に見合うだけの利益をもたらすケースは比較的少ない。
13. 短期的な利益に的を絞るとイノベーションを漸進的手法に置き換えてしまう。すると「お金がない人が人目を引くために要りもしない品物を買う」ように消費者を説き伏せることになる。
14. デザインプロジェクトには制約やデッドラインがある。開始があり中間点があり終了がある。
15. プロジェクト概説書には思わぬ発見、予測不能性、運命の気まぐれの余地を程よく残すのが良い。
16. あまりに抽象的な概説書はプロジェクトを五里霧中に追いやる危険性があるが制約が厳しすぎると結果は必ず漸進的で平凡なものになる。
17. 優れた概説書は目標を高く掲げて大成功する組織と程々の成功する組織との違いを生み出す。
18. デザイン思考はテーブルの両側にいる人々が実践すべき原理。
19. 今やデザインは幅広い問題に対応するようになり、イノベーション・プロセスの上流に移動し始めている。オフィスで黙々と形態と機能について考える孤独なデザイナーは異分野連携チームに勝てなくなってきている。
20. IDEOには「いかなる個人よりも全員の方が賢い」との格言がある。
21. 個人が異分野連携で能力を発揮するには二次元の強みを持つこと、いわば「T型人間」であることが必要。
22. デザイン思考家とは「T」の横軸を備えた人。
23. 巨大なチームを一つ作るのではなく、小さなチームをたくさん作る。
24. 着想段階では小規模で集中的なグループが必要。
25. 必要なのは実験を行い、リスクを冒し、能力を最大限に発揮できる社会的・空間的な環境。
26. デザイナーの「着想」「発案」「実現」のスキルを組織全体に広める必要がある。特にデザイン思考を“上流”、つまり戦略的意思決定が下される重役室に移動させる必要がある。
27. 今日では、デザインはデザイナーに任せておくには重要すぎる。
28. デザイン思考家にとって正しい行動や間違った行動というものはない。あるのは意味のある行動だけ。
29. デザイナーの仕事はドラッカーの言うところの「ニーズを需要に変えること」に尽きる。
30. ヘンリー・フォードの言葉:「顧客に何が欲しいか?と尋ねたら、『もっと速い馬が欲しい』と答えただろう」
31. 成功するデザイン・プログラムの三つの要素―「洞察」「観察」「共感」
32. 「洞察」―他者の生活から学びとる。この段階はその後のエンジニアリング段階に匹敵するほど重要。だから、あらゆるところから洞察を得る心構えが必要。
33. 「観察」―人々のしないことに目を向け、言わないことに耳を傾ける。観察では量より質が重要になる。異なる生き方、考え方、消費習慣を持つ利用者に注目する。
34. 「共感」―他人の身になる。デザイナーは自らの基準や期待を一般化してはいけない。
35. 事例:病院側は患者の実際の経験を、「保険確認、治療の優先順位づけ、ベッドの割り振り」の問題としか見ていなかった。
36. 多くのデザイナーは市場について多くの個人の集合と考える。デザイン思考家は全体は部分の合計より大きいと考える。
37. 「デザイナーは消費者のために創る」から「消費者と共に創る」へと進化し、さらに「消費者自身が創る」段階への模索が始まっている。
38. 今のところ、最も大きな機会が潜んでいるのは「企業が新製品を作り消費者が受動的に消費する」という20世紀的考え方と、「消費者自身が必要なものすべてをデザインする」という未来的ビジョンの中間の領域。
39. 消費者の幸福、安らぎ、快適性を考えることが企業を成功に導く。
(つづく)