浅沼宏和ブログ

2017.08.07更新

第10章 資本所有の格差

1. 資本/所得比率が高まり経済成長が低下する中で資本所有権が再び集中しつつある。

2. 富の分配は常に労働所得の分配よりもずっと集中している。どんな時代のどんな社会でも人口の貧しい下半分は実質的に何も所有していない。

3. 国富の4分の1から3分の1を所有する中流階級の出現が長い目で見た時に富の分配を左右した最も重要な構造変化であることは間違いない。

4. なぜ第一次大戦以前に富の格差が極端に増大したのか?21世紀初頭に富が再び繁栄しているのに今日の富の集中は歴史的最高記録よりも著しく低いのか?この状況が昔に戻る可能性はあるか?

5. 富の集中は1914-1945年のショックから未だ完全には立ち直っていない。

6. 米国での富の格差は所得の格差同様に1910-1950年の間に低下したが、ヨーロッパほどではなかった。もともと格差が小さく、戦争によるショックもそれほど激しくなかったから。

7. 伝統的農耕社会と第一次大戦以前のほぼすべての社会で富が超集中した第一の原因は、これらが低成長社会で、資本収益率が経済成長率に比べ、ほぼ常に著しく高かったから。

8. g=1%、r=5%ならば、資本所得の5分の1を貯蓄すれば残りをすべて消費しても、先行世代から受け継いだ資本は経済と同じ比率で成長できる。この相続資本の優位性がr>gという基本的不等式の強力な影響によって説明できる。

9. 経済成長は人類の歴史の大半を通じてほぼゼロだった。人口動態を経済成長と組み合わせれば、古代から17世紀までの長い間、年間経済成長率は0.1-0.2%以下だった。資本収益率がそれより高かったことは確かで、年間資本収益率の長期的中央地は4-5%だ。

10. 資本収益率とグローバルな経済成長率の差は、グローバル経済成長率が3.5-4%だった20世紀後半の50年間に大きく縮小した。

11. そして、21世紀には経済成長の鈍化につれて、ほぼ確実にその差は再び広がったはずだ。

12. 20世紀には財政的、非財政的ショックの両方により、歴史上初めて純粋な資本収益率が経済成長率よりも低いという事態が生まれた、それがほぼ1世紀近く続いた。しかし、この事態は終わりに近づいている。国家間の税制競争がその論理的帰結にまで進むなら、rとgの差は21世紀のどこかの時点で19世紀に近い水準に戻るだろう。

13. もし、平均資本税率が30%程度のままであれば純粋な資本収益率はたぶん経済成長率よりもずっと高い水準になるだろう。

14. r>gという不等式はある条件下での歴史的主張。イノベーション等により生産性向上が急激に進んだら、経済成長率は資本成長率よりも際立って高くなってもおかしくない。

15. 一般的に4-5%という資本収益率の相対的安定性は時間選好という概念に基づく。成長率ゼロの経済では、資本収益率は時間選好ゼロと必ず一致する。資本収益率が4-5%で歴史的に安定しているのは最終的には心理的理由。この収益率は平均的な人の性急さと未来に対する態度を反映している。

16. このように行動と未来に対する態度を一つのパラメーターに要約するのは不可能だ。これらの選択は、時間選好だけではなく、予防的貯蓄、ライフサイクルの影響、富そのものに付随する重要性等多くの要素を含んでいる。

17. つまりr>gという不等式は、絶対的な論理的必然ではなく、さまざまなメカニズムによって決まる歴史的現実として分析する必要がある。

18. 裕福な人の資産が平均所得よりも急速に増大すると、資本/所得比率は無制限に上がり続け、長期的にはそれで資本収益率は低下する。しかし、このメカニズムが働くには数十年かかるし、19世紀と第一次大戦前夜のイギリス、フランスのように裕福な人が外国資産も蓄積できるような開放経済ではなおさらだ。

19. 相続制度が長子相続制から兄弟姉妹間の均等分割性に変わると資産は世代を経るごとに減るはず。ところがそうなっていない。

20. 資本収益率が成長率を大きく上回ると、富の蓄積と移動の動学によって分配は自動的に極度に集中へと向かい、兄弟姉妹間の平等な分かち合いがそれほど関係なくなってしまう。

21. もし、資本収益率と経済成長率の差が19世紀フランスで見られたほど高ければ、富の累積動学によって自動的に富は極度に集中し、通常トップ十分位がションの90%程度、トップ百分位が50%を所有すると予見される。

22. つまり、基本不等式r>gによって、19世紀に見られた高水準の資本格差、ひいてはある意味でのフランス革命の不成功を説明できる。

23. 兄弟姉妹間の資産均等分配はいくらか影響があったが、r>gほどの差はなかった。

24. 理論モデルによると資本収益率が5%前後なら、成長率が1.5-2%を超えるか、資本課税によって純収益率が3-3.5%に下がるか、その両方が怒らない限り、資本集中の均衡値はあまり下がらない。

25. もしも差r-gがある閾値を超えるともはや分配は均衡しない。富の格差は限りなく増大し、分配の最高値と平均値の差は無限に大きくなる。

26. この閾値の正確な水準は貯蓄行動次第だ。とても裕福な人々にお金の使い道がなく、資本ストックとして貯蓄し、それを増やす以外に選択肢がなければ、格差の拡大はもっと起きやすくなる。

27. 最終的には貯蓄を投資する対象が無くなり、グローバルな資本収益率は下落し、いずれ分配均衡が現れる。しかし、それにはとても長い時間が必要だ。

28. 現在でもかつてもパレートのように富の分配がまるで何かの自然法則であるかのように盤石だと想像する人々もいる。現実にはとんでもない話だ。歴史的視野で格差を研究する時、重要なことは分布の安定性ではなく、その時々起きている重要な変化だ。

29. なぜ富の格差がベル・エポック期に到達した水準に戻っていないのか。残念ながらこの問いに対する決定的で満足な答えを持ってはいない。

30. 1914-1945年のショックに続いて富の格差が大幅に縮小したのはわかりやすい。トップ階層の持つほとんどの富はそのずっと以前に蓄積した者なので、そのような大きな財産を復活させるには穏当な財産蓄積よりもずっと時間がかかる。

31. 資本蓄積が何世代にもわたる長期的プロセスだという認識は重要。言い換えると今日、富が過去ほど不平等に分配されていない理由は、単に1945年以降、まだ十分に時間がたっていないからだ。

32. 1914-1945年の間、広くは20世紀中にどのような構造的変化が起こったせいなのか?最も自然かつ重要な説明としては20世紀の政府が資本と所得に高い税率で課税を始めたことだ。

33. 1900-1910年に見られたとても高い富の集中は、長期間にわたって大きな戦争や大参事がなかった第一次大戦までは資本所得や法人利潤には課税されなかった。課税される場合でも税率は非常に低かった。

34. 資本所得に対する課税の効力は、資産の総蓄積を減らすのではなく、長期的な富の分配構造を変えるということがある。総資本ストックは変化しなくても、トップ百分位の富のシェアの減少が中流階級の台頭によって相殺されるということ。

35. 1914-1945年の戦争による経済的、政治的ショックに続いて多くの富裕国で課せられた20-30%かそれ以上の税率となると影響力がまるで違う。そのような課税の結果、家族資産を平均所得の上昇よりも早く増やすには代々続く世代が出費を減らし、貯蓄を増やす必要があった。

36. 簡単なシミュレーションをすれば、累進相続税が長期的にはトップ百分位の富のシェアを大きく減少させるのが分かる。税制だけで多くの変遷を説明できる。

37. 税制の変化とは別に二つの要素が重要な役割を果たしている。

38. 一つは、所得に占める資本所得の割合や資本収益率が長い目で見るとわずかに下がっているらしいこと。もう一つは経済成長率が18世紀までの極端に低かった値に比べれば大きいままだということ。

39. つまり、富の集中はたとえ資本に対する課税が無くなっても1900-1910年の極端なレベルに戻るとは限らないということ。

40. 今日のヨーロッパではベル・エポック期に比べ、富の集中が目に見えて減っている事実は、偶発的出来事(1914-1945年のショック)と課税制度がもたらした結果。これらの制度が破壊されるともっと高い富の格差が生じかねないリスクがある。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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