浅沼宏和ブログ

2017.08.08更新

第11章 長期的に見た能力と相続

1. 今日の資本の一般的な重要性は18世紀と大差がない。形が変わっただけ。かつての資本は土地、今ではそれが産業資本、金融資本、不動産資本。

2. 富の蓄積の論理を理解するには、資産形成における相続と貯蓄の相対的役割が長期的にどう変わったかを見る必要がある。

3. 資本収益率が経済成長率よりも大幅かつ永続的に高いなら、相続が貯蓄よりも優位を占めるのは避けがたい。

4. r>gという不等式はある意味では過去が未来をむしばむ傾向を持つということ。過去に創出された富は労働を加えなくても労働に起因する貯蓄可能な富よりも自動的に増大する。

5. 21世紀の格差構造が19世紀と同じになるわけではない。富の集中はそれほど極端ではないし、以前よりも富と所得の相関が高まっている。21世紀にはスーパー経営者と中級不労所得生活者を兼ねられるようになる。新たな能力主義の秩序がそれを奨励する。そのしわ寄せは低、中賃金労働者、中でも財産のない人々に行く。

6. どんな社会でも富を蓄積する過程は主に労働と相続の二つ。

7. 一般的に、経済的な相続と贈与の年間フローの国民所得比を指すbyは、三つの力の席に等しい。

8. By=μ×m×β  βは資本/所得比率、mは死亡率 μは生存者1人当たりの平均財産に対する死亡時の平均財産

9. βは自明の理を表している。相続財産フローが高いということは相続可能な民間財産の総ストックが大きいことになる。

10. 死亡率mが高ければ高いほど相続フローが大きくなる。

11. 死亡時の平均財産が人口全体の平均財産と同じと仮定するとμ=1。すると相続フローは死亡率mと資本所得比率βの積になる。たとえばβ600%、成人死亡率が人口の2%ならば、年間相続フローは12%になる。もしも死亡時の平均財産が2倍ならμ=2であり、相続フローは国民所得の24%になる。これは19世紀と20世紀初頭の水準に近い。

12. μは富の年齢分布に左右される。年齢と共に資産が増加する割合が大きいとμは高くなり、その結果相続フローも大きくなる。

13. 逆に、富の第一の目的が老後資金であり、高齢者が労働期間中に蓄積した資本を老後に消費する社会では、富のライフサイクル理論に従って死ぬ時に資本がほとんどない状態になるため、構造的にμはゼロになる。

14. 多くの人は第二次大戦後の楽天的な数十年間に相続財産が終焉に向かうと想像するようになった。しかし、相続財産が次第に消えると考えるべき理由は存在しない。

15. 平均余命が延びると死亡率mが下がり、相続までの時間が長引く。すると相続フローが国民所得に占める割合も小さくなる。

16. 21世紀前半から半ばにかけて予想されるベビーブーマー世代の高齢化、その後の死亡率上昇によって20世紀後半の相続フロー低下と今後の相続フロー急上昇をある程度説明できる。

17. 19世紀の平均相続年齢はわずか30歳だった。21世紀にはそれが50歳前後になる。

18. 人々の死亡が遅くなり、相続が遅くなっても相続財産の重要性は失われない。生前贈与の増大が年齢効果を多少は相殺するし、高齢化社会ではもらう資産額も増える。

19. フランスでは常に死者の方が生者より裕福で、μは常に100%より大きい。

20. 1970年代以降の贈与の重要性の増大により、贈与受領者の平均年齢が低下。21世紀初頭の相続者の平均年齢は45-50歳、贈与受領者のそれは35-40歳。

21. 19世紀を通じて資本が集中するにつれ、資産が非常に高齢化した。1820年代の50代人口に比べると高齢者は平均でわずかに裕福だった。その後、その差は着実に開いていった。第一次大戦前夜のパリでは、70代、80代は平均すると50代よりも3倍から4倍も裕福だった。

22. 富の集中の大半を説明する支配的動学は不等式r>gから必然的に生まれる。50歳、60歳の人が所有する富が相続によるか稼いだものかに関わらず、ある閾値を超えると資本は自己再生産して指数関数的に蓄積する傾向にある事実は変わらない。

23. こうした自己維持的なメカニズムは、1914-1945年に資本とその所有者が被った度重なるショックによって崩壊した。富の大幅な若返りは両大戦がもたらした結果の一つ。

24. 1940年に60歳で、爆撃、接収、破産によって持てるすべてを失った人が立ち直れる望みはほとんどなかった。対照的に1940年に30歳であれば戦後に富を蓄積する十分な時間があり、1950年代に40代になった頃には70代の人々よりも裕福になっていただろう。

25. 戦争は全てのカウンターをゼロ、あるいはゼロ近くにリセットした。

26. 「復興資本主義」は本質的に移行過程であり、構造転換ではなかった。戦後、再び資本の蓄積が始まり、資本/所得比率βが上昇すると、資産は再び高齢化を始め、平均死亡財産と平均生存時財産の比率μも上がった。

27. 貯蓄行動がどのようなものであっても、資本収益率が上がり、成長率が下がると、資本の累積プロセスが速くなり、不平等になる。

28. 国民所得の20%にあたる年間相続フローが約30年続けば、国民所得約6年分という膨大な額の遺産や贈与が蓄積され、それが民間財産のほとんどを占めることになる。

29. 相続財産が総財産に占めるシェアは1970年代以降着実に増え続けている。

30. 相続フローを国民所得に対する比率ではなく、可処分所得の比率として表すと、2010年代初頭にフランスの世帯が毎年受領する相続と贈与は可処分所得の約20%になり、その意味では相続は未だに1820-1910年と同じくらい重要。

31. 社会階層の頂点で相続資本所得が労働所得よりも大きな割合を占める社会では、二つの条件が満たされなければならない。一つは、資本ストック中の相続資本のシェアが大きいこと。もう一つは相続財産の極端な集中。

32. 来るべき世界は過去の最悪な二つの世界が合体したものになるかもしれない。一つは、能力や生産性の観点から正当化されたすさまじい賃金格差、もう一つは、相続財産の非常に大きな格差。この二つが存在する世界になるかもしれない。

33. 現代社会の格差の正当化に能力主義への信奉が大きな役割を果たす。

34. 21世紀には最終的に相続資本分布が19世紀と同じくらい不平等にならない保証はない。ベル・エポック期と同じぐらい極端な富の集中に回帰するのを妨げるような不可避の力は存在しない。特に、成長が遅くなり、資本収益率が増大した場合はなおさら。

35. 格差を拡大させる基本的な力は、市場の不完全性とは何の関係もなく、市場がもっと自由で競争的になっても消えない不等式r>gにまとめられる。制限のない競争によって相続に終止符が打たれ、もっと能力主義的な世界に近づくという考えは危険な幻想。

 

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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