浅沼宏和ブログ

2017.08.08更新

第15章 世界的な資本税

1. 21世紀のグローバル化した世襲資本主義を規制するには20世紀の税制モデルと社会モデルを見直して現代社会に適合させるだけでは不十分だ。理想的なツールは資本に対する世界的な累進課税で、それをきわめて高水準の国際金融の透明性と組み合わせなければならない。

2. 世界的な資本税というものは空想的な発想だ。世界各国がこんなものに同意するなど当分の間は想像もできない。目的達成のために世界中のあらゆる富についての税率表を作り、その歳入をどう山分けするかを決めねばならない。

3. 当分の間は実施できないとしても、世界的累進課税の検討は政策の参照点としては意義を持つ。これを基準として他の提案を評価するわけだ。

4. 保護主義と資本統制は、世界的な資本税の代替案としては不十分。世界的な資本税は経済の開放性を維持しつつ、世界経済を有効な形で規制し、その便益を各国同士や各国の中で公正に分配できる長所がある。

5. 世界的資本税の導入は可能だ。まずは大陸か地域レベルで導入し、その後地域間の協力を密接にするように取り組めばよい。

6. 金融透明性と情報共有の問題は理想的な資本税と密接に関連する。

7. ピケティの提案する資本税は世界のあらゆる富に対する累進的な年次課税。

8. 多くの国には固定資産税があるが、不動産だけに基づいている点が問題だ。

9. 資本税の主要な目的は財源を賄うことではなく、資本主義を規制することにある。まず、富の格差の果てしない拡大を止め、危機の発生を避けるために金融と銀行のシステムに有効な規制をかける。

10. 資本税はまず民主主義的、金融的な透明性を促進しなければならない。誰が世界中でどんな資産を持っているかが明確になる必要がある。

11. 世界の金融システムの監督規制を行う国際機関は金融資産の分布について大雑把な情報しか持っていない。タックス・ヘイブンに隠された資産の量ははっきり把握できていない。

12. 資本に対する0.1%の税金は、本当の税金というよりは申告義務づけ法のような性格のものだ。ある資産の合法的な所有者と認められるためには、所有している資本資産を財務当局に申告しなければならないことにするということ。

13. 資本課税は政府に対し、銀行データの自動共有をめぐる国際合意の明確化と拡大を強制する。

14. 世界的な資本税への第一歩は、国際レベルで銀行データ自動送信を広げ、納税者全てに計算済みの資産一覧を発行するに当たって外国銀行で保有されている資産の情報も含めるようにすることだ。

15. 自由貿易と経済統合でお金持ちになった個人が隣人たちを犠牲にして利潤をかき集めるなどというのは窃盗以外の何者でもない。

16. 自国内の金融機関に必要な書類の提出を義務づけない国々に対しては自動制裁を加えるとよい。

17. 累進所得税が存在し、ほとんどの国で累進的な相続税もある以上、累進資本税の目的とは何か?それには貢献的な理由、インセンティブ面での理由という二つがある。

18. 所得は裕福な個人にとってしっかりと定義されているとはいえない。だから金持ちの貢献能力をきちんと評価できるのは資本の直接課税だけ。富の階層のトップにある財産がきわめて高い収益を得ているとすれば、この貢献能力に基づく議論は累進資本税を正当化するために最も重要なものになる。

19. もう一つの理由は、資本税が最高の収益を求めるインセンティブになるという発想。富に1-2%の税金をかけても資本から年10%を稼げる実業家からすれば税は比較的軽いから。これに対し、自分の富を年最大2-3%しか稼がない投資に回している人にとっては高い税率に感じられる。

20. しかし、現実は必ずしも理屈通りにいくとは限らない。資本収益率は必ずしも資本家の努力や才能に依存しているわけではなく、財産規模に応じて平均収益率は系統的に変わる。さらに、個人の収益の相当部分は予測しにくいから。

21. 資本に対する永続的な年次課税の税率はそこそこ穏健なものでなければならない。今日のヨーロッパでは民間財産が極めて高い水準(GDP5年分)にあるので、低い税率であっても富への累進的な年次課税は巨額の税収をもたらす。しかも富の大半は上位百分位の上の方に集中している。

22. 理屈の上ではEU加盟国がそれぞれこうした税金を独自に導入すればよいのだが、EU領土内外における銀行情報の自動共有がなければ、租税海保の危険性が極めて高くなる。

23. ヨーロッパ全体での富裕税というのは現実的か?技術的には現実的でないと考えるべき理由はない。

24. 資本税は民間資本とその収益という永遠の問題への対応としてもっとも非暴力的で効率的だ。不等式r>gだけでなく、最初の規模に応じて資本収益にも格差が出るという問題に対する最も適切な対応でもある。

25. ただし、資本税は新しいアイディアなので21世紀のグローバル化した世襲資本主義に適合させる必要がある。

26. 資本税以外の代替案には何があるか?もっとも単純な代替案は保護主義と資本統制だ。

27. 保護主義は発展の遅れた産業部門を保護するのに便利、また、ルールを尊重しない国に対する価値ある武器にもなる。ただし、保護主義が大規模かつ長期にわたって導入されると、それ自体としては繁栄の源にも富の創造者にもならない。さらに少数者に富が蓄積する傾向に歯止めをかける力はない。

28. 資本統制はほとんどの富裕国において1980年代以来行われてこなかった。しかし、2008年の金融危機以来、こうした在り方について深刻な疑念が台頭し、今後数十年で富裕国がますます資本統制に頼る傾向が高まる見込み。

29. 一部の国ではずっと資本統制を実施してきた。特筆すべきは中国で、資本の流入、流出に厳しい資本統制を行っている。特に流出資本の問題は現在、中国がかなりピリピリしている問題。中国の富裕層は資産を国外に持ち出すことは困難になっている。こうした中国のやり方は不透明かつ不安定だが、富の格差動学を統制し押さえる手法の一つであることに違いはない。

30. もしヨーロッパ諸国が資本を協力的かつ有効に規制しなければ、各国が独自の統制や国民的嗜好を規制化する可能性が高い。この点で中国が明確に有利であり、資本統制で中国を任すのは困難だろう。資本課税は資本統制のリベラルな形態であり、こちらのほうがヨーロッパの比較優位に適しているのだ。

31. グローバル資本主義とそれが生み出す格差を規制するとなると、天然資源の地理的分布、特に「石油レント(石油からの収入)」の地理的分布が特に問題になる。世界は単一の民主コミュニティではないので、天然資源再分配がしばしば平和的ではない方法で決まる。

32. 国際社会はできる限り軍事力による富の再分配を避けるべきであり、石油レントの最も公正な分配を実現する別の方法を見つける義務を負うべきだ。その手法には、制裁、税金、外国援助などがある。そういう手法を使って原油のない国にも発展する機会を与えるべきだ。

33. 再分配と世界の富の格差規制について一見すると最も平和的に思える形態が移民だ。資本を動かすといろいろ面倒だが、労働を賃金の高いところに移動させた方が簡単だからだ。これはもちろん世界的な再分配に対する米国の偉大な貢献だ。

34. 独立戦争の頃にはわずか300万人しかいなかった米国が何度も続いた移民の波で3億人以上となった。移民は米国をまとめ上げているセメントであり、蓄積資本がヨーロッパのような重要性を持つのを防いでいる安定力でもある。これはまた、米国でますます増大する労働所得格差を政治的にも社会的にも容認できるものにしている力でもある。

35. 米国での所得分布の下半分にいる移民の多くにとって格差は二次的意義しか持っていない。彼らの出身国はずっと貧しく、米国に来たことで自分の所得は上昇しつつあると感じられるからだ。

36. 近年、貧困国に生まれた個人が富裕国に引っ越すことで生活水準をあげるという、「移民」を通じた再分配の仕組みはヨーロッパでも重要な要因になっている。

37. 移民を通じた再分配は望ましいものであるが、格差問題のごく一部しか解決できない。移民による再分配は格差の問題を先送りするものにすぎない。所得と資本に対する累進課税を持った社会国家は必要なのだ。

 

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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