知識労働と肉体労働との違いにいち早く注目したのはドラッカーでした。肉体労働(マニュアルワーク)がいわゆる「9時から5時まで」といったタイプの仕事であるのに対し、知識労働は仕事の成果で評価される仕事です。肉体労働では仕事のプロセスの管理が重要ですが、知識労働では成果管理が重要になります。
しかし、今では純粋な肉体労働、知識労働は少なくなっています。一人の労働者が肉体労働と知識労働の両方をこなすようになったのです。ドラッカーは、肉体労働と知識労働の両方を行っている労働者を「テクノロジスト」と呼びました。そして、先進国ではこのテクノロジストの仕事の生産性を高めることが重要な課題だと主張したのです。ドラッカーの主張は時代をはるかに先取りするものだったのです。
ドラッカーは例えば外科医はテクノロジストであると述べています。外科医の主な仕事を診断と手術に分けた場合、診断は知識労働に当たるといいます。しかし、手術は肉体労働だというのです。診断は仕事のゴールを明確に定義するために専門知識を使います。病状を観察し、どのような治療を行うかを決める仕事なのです。
これに対して手術は具体的な計画に基づき明確な手順を一つ一つ実行する仕事です。とても高度な専門知識に支えられてはいますが、本質的には肉体労働なのだというのです。ドラッカーは、この二つのタイプの仕事は分けて、それぞれの仕事特有の原理に従って管理したほうが良いと主張したのです。
ハイブリッドワークでもテクノロジストの仕事の生産性向上は大きな目標となります。現在ではオンラインでの仕事の方法が模索されていますが、その場合、肉体労働(マニュアルワーク)と知識労働とを区別することが一つのポイントになります。特に、知識労働の最終的な成果をどれだけ具体的に定義できるかが生産性に大きな影響をもたらすことでしょう。
しかし、肉体労働(マニュアルワーク)の生産性向上も重要です。上司や同僚の集まる職場に出向かない場合、能率が落ちがちになるというデータも出始めています。こうした仕事は量で判断されるものではありますが、その生産性については、環境変化や心理面での影響が視野に入れられることになるでしょう。おそらくこうした仕事はバカンスを楽しみながら仕事を行うというスタイルにはなじまないことでしょう。
ハイブリッドワークの課題についてはまだまだ模索が必要となりますが、その際にテクノロジストというコンセプトを意識することは必須となるでしょう。