浅沼宏和ブログ

2021.10.12更新

大学で財政学の講義をするのでレジュメをまとめていた最中に、財務省の事務次官が政治家のバラまきを批判した論考を発表し物議をかもしています。

小さな政府を志向する人たちは、「政治家が公益のために行動する」(ハーヴェイ・ロードの前提)を否定します。すると、選挙目当てのバラマキ政策をとることになるというわけです。

日本の債務残高は1200兆円という天文学的数字ですが、先のニュースのコメント欄を読むと、「円貨建て国債は借金ではない」「自国通貨建ての国債をいくら発行しても財政は破綻しない」という意見が圧倒的に書き込まれていて、「バラマキを見直さないと将来世代につけが回りますね」と発言したTVの司会者は「不勉強」と突き上げられているようです。

私は、以前、シュンペーターの租税論についてまとめたことがあるのですが、シュンペーターは第一次大戦で破綻したドイツの国家財政に着想を得て、肥大化する現代国家は常に破綻リスクがつきまとう。最たるものは社会保障支出だという意見でした。

日本の太平洋戦争中はどうだったのかな?と思い、調べたところ、「円貨建て国債」のみを発行し、すべて国内で引き受けていたにもかかわらず、ご承知のように敗戦によって日本は財政破綻しました。超インフレで14年間で物価は180倍に高騰し、蓄積された資産は消滅しました。「自国通貨建て国債で財政は破綻しない」は間違いであることがわかりました。

また、戦時中の国債発行残高はGDP比200%だったそうで、それは現在の日本の比率とほとんど同じですね。

しかし、多くの人が、「日本は世界一の対外債権国であり、その額は国債発行残高の半分近くになる。相殺してみれば、国債発行残高はそれほどではない」という主張をしています。

確かに、日本は巨額の債権国なのですが、クローサーという財政学者の説によると、国家は、財サービスの赤字、所得収支の赤字の貧乏国から、産業が発達して財・サービスの黒字国となり、成熟すると、所得収支が黒字化するが、逆に財・サービスは赤字となると説明されています。

そして、日本は21世紀に入ってずっとこの成熟した債権国として過ごしてきていたわけですが、国としての老化が進み、対外債権を少しずつ取り崩すモードに入ってきているようです。ここで説明した前提通りであれば、やはりそろそろバラマキはまずいような気がしています。

政府債務が過度であれば、どこかでインフレになり、すると1200兆円の国債の金利負担も大きくなり、年金、医療、公共投資、国防費の原資が消えることになるような気がしています。

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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