在庫は会計上問題になりやすいテーマです。適切な会計処理を行うためには在庫の特性を理解しておくことが大切です。在庫の問題には、数量の問題と金銭評価(金額)の問題があります。
在庫の間違いを防ぐには定期的に「実地棚卸」を行うことが大切です。実地棚卸は横領などの社内不正の防止、会計処理の誤りを早期発見するためにも必要です。また、実地棚卸の実施状況はその会社の業務管理レベルを示すものでもあります。中小企業の中には、倉庫をざっと見た程度で推定した概算値で済ましている場合がありますが、少しずつでも実地棚卸のレベルを上げていく取り組みが必要です。
数量の問題で見落としやすいのは「社外在庫」です。社外在庫とは購入済みの商品や材料が、まだ購入先に預けられていたり、運搬中だったりして自社に届けられていない状態を指します。会計上は仕入れの記録があるにもかかわらず、それが在庫に計上されていないと損益の計算に大きな狂いが生じます。
社外在庫は、商品等が手元にないので、つい見落としがちです。社外在庫の見落としは、自社だけでは保管が難しい商材を扱っている企業に起こりがちです。特に会計知識の乏しい人が在庫管理を行う場合には注意する必要があります。
以上のような数を正確に数えれば済む数量の問題とは異なり、在庫の金額を評価することはわかりにくさがあります。複数の“正しい”考え方があります。例えば、買った時の値段がバラバラな商品等が在庫となっている場合、どの値段を選ぶかで在庫の金額が変わってきます。買うタイミングによっては価格が二倍、三倍も違うものもあります。評価の問題は簡単ではありません。
在庫の評価としては、一つ一つの商品の入出庫とその価格を対応させる方法(個別法)がわかりやすいでしょう。しかし、大量の商材を扱う場合には事務量が増えて大変です。そこで、先に仕入れたものから出庫する方法(先入先出法)、後から仕入れたものから出庫する方法(後入先出法)、最後に仕入れた時の価格を適用する方法(最終仕入原価法)などがあります。最終仕入原価法が一番簡略であるためよく使われています。
他にも、仕入れた商品の平均をとる方法(総平均法、移動平均法、単純平均法)や売価と原価の比率を在庫に当てはめる方法(売価還元法)のように計算によって求める方法もあります。こうした評価方法のどれを選ぶかは自社の事業の特性や実体、管理レベルによっても違ってきます。
在庫の評価で最も悩ましいのが「仕掛品」です。仕掛品には材料費だけではなく、人件費やその他の経費がかかっています。それらの金額のうちいくらを仕掛品に配賦するかは難しい問題です。採用した配布基準によって仕掛品の金額は大きく左右されるのです。
配布基準には人数、期間、面積、使用したエネルギーなどさまざまなものがあります。部外者が見ても「なるほど」と納得してもらえるような妥当性のある基準を選ぶことが大切です。仕掛品の評価はその判断基準を巡って税務調査でも問題になりがちです。
在庫を適切に評価しないと正しい業績が分かりません。不十分な在庫管理によって自社の業績を正しくつかめていない会社はたくさんあります。在庫管理の妥当性は定期的に見直していく必要があります。在庫の問題の正解は一つではありません。