ビジネスとは、単純に言えば資金を投入して利益を得る活動です。ですからコストとリターンという言い方がよく使われます。「これだけの資金を投入した結果、期末の利益はこれだけになった」といった表現はコストとリターンの考え方を反映しています。
コスト管理の基本となる考え方がコストとリターンです。「これこれの金額(コスト)を使った結果、これだけの見返り(リターン)があった」とか、「業績(リターン)が思わしくないのでコスト削減に取り組もう」といった表現は、仕事の場面で頻繁に使われています。
また、経営環境の不確実性が高まったため、コストの代わりにリスクという言葉もよくつかわれています。資金の投入にはリスク(危険)が伴います。もし、リスクが高いのであれば、望まれる利益(リターン)はそれなりに大きな金額でなければなりません。逆にリスクが低ければ見返り(リターン)が低くてもその確実性が魅力になります。
このようにビジネスの世界では、「コストとリターン」、「リスクとリターン」といった考え方が浸透しているのです。
しかし、世の中の変化がさらに加速したことで、社会が企業に期待する役割はどんどん大きくなっています。CSR、SDGs、ESG投資といったような言葉が日常的に聞かれることになったことは、その表れです。そこで、最近、重要になったのが「インパクト」という視点です。
米国の新自由主義的なビジネス社会では社会的責任を果たすために資金や労力を使うことは株主利益に反する行為だとずっと考えられていました。「社会に還元するよりも株主に還元せよ」というわけです。
ところが、企業活動によって公害が発生したり、自然破壊が進んだり、人権侵害が生じたりといった事案が増えるにしたがって、「企業は社会的な責任を果たしていない」という批判が起きるようになりました。その結果、企業には社会に対して与えたインパクト(影響)を説明する責任があるとされ、悪影響を減らし好影響を大きくすることが求められるようになったのです。
日本では2022年4月以降、東証プライム市場(旧・東証一部)上場企業には国際的なガイドラインに基づいて気候変動への取り組みを説明する義務が課されています。それが下請け企業にも波及してカーボンニュートラルへの取り組みが求められているのです。さらにそれが今後、生物多様性についても求められると思われます。企業は自社の活動が及ぼすインパクトについての説明が求められているのです。
かといって営利企業がリターンを無視してボランティア活動にはげむことはできません。しかし、社会的責任を無視して企業活動を行うわけにはいきません。企業にはリターンとインパクトとの間でうまくバランスをとることが求められています。
たとえばサントリーは製品作りに大量の天然水を使用しています。そのため、自社の水使用量に相当する水源地の森林保全活動を行っています。その結果、「サントリーは社会に好影響(インパクト)を与える会社」という印象を与えています。それとは反対に、社会に対する不誠実な行動が明らかとなって評判を落とす企業も続出しています。もはやインパクトを無視してはビジネスが成り立たない時代に入ったといえます。