雑誌WEDGE(2017年5月号)で中西準子氏の「『ゼロリスク』の呪縛から逃れられない日本」という記事が掲載されていました。
築地市場の豊洲移転問題で「環境基準」が大きな問題になっているわけですが、「環境基準を大幅に上回った」と言うばかりで、その環境基準の意味が明らかにされていないのが問題だという趣旨です。
たとえばベンゼンの場合、環境基準は非常に厳しく、毎日2リットルの水を70年間飲み続けた場合、発がんリスクが10万分の1上がるレベルに設定されているそうです。仮に環境基準を100倍上回っても実質的に人体にまったく影響が出ないレベルなのだそうです。
ちなみにシアン(青酸化合物)は1万リットルを一気に飲む場合の致死量、ヒ素の場合はベンゼンと全く同じ基準なのだそうです。
こうした非常に厳しい環境基準は日本人の心配性の気質に合わせて形成されてきたとのことで、科学的にはまったく無影響なレベルの有害物質に過剰に心配するあまり、非現実的なレベルにまで基準が厳しくなってしまったのは問題とのことでした。
リスクマネジメントのポイントはリスクの許容範囲を定めることです。過剰に厳しい基準を設定すると、それをクリアするためのコストは莫大になります。ですから不安解消とコストとのバランスを良く考えた適切な基準設定が求められるわけです。ところがニュースでは「環境基準の100倍」といった説明だけが連呼され、その環境基準がどのような意味を持つかについては一切触れられていないわけです。
私たちは普通に食事をしても残留農薬やら化学物質やらを摂取しているわけですから、「食べ物を扱っているから」という理由だけで過剰な基準を設けるべきではないと思います。
私たちは普段からそこまで厳格なリスク管理をしているわけではありません。豊洲市場の問題にだけ妙に厳しい基準を持ち出すと、本来の目的とは異なる事態が生じるように思います。