2022.10.01更新

               

 「正直者」という誉め言葉があります。「裏表のない人」という肯定的な意味で使われることが多い言葉です。しかし、「正直」であることはいつでも正しいわけではありません。状況次第では「正直」は悪いことになるかもしれないのです。

  「正直」に似た言葉に「誠実」があります。この二つは似ていますが、実は意味が違います。「正直」とはウソや偽りのない発言、振る舞い、そのような人物のことです。これに対し、「誠実」とは、自分自身の利得は後回しにして周囲の人や状況に対して最も良いと思われる言動をすること、そのような行動習慣を持つ人のことです。ですから、「正直」な人が「誠実」とは限りません。

  友達が悪人に追われて自分に助けを求めてきたとします。その友達を家にかくまっていたところ、悪人が訪ねてきて「おい!あいつの居場所をしっているだろう」と聞かれたとします。「正直」に答えるとしたらどうなるでしょう。「ええ、知っています。ウチにいますよ。」という答えになります。これだと友達は悪人にひどい目にあわされてしまいます。

  では、「遠い街に旅に出たといううわさを聞きました。」と答えたとします。そのおかげで友人は難を逃れることができました。もちろん、この発言はウソです。ですからこの人は「正直」ではありません。友人の状況をよく理解し、その友人にとって最も良い結果になるような言葉を選んだわけです。しかも、その発言のせいで自分自身が危険な目に合うかもしれません。しかし、この人は「誠実」な人と言えます。彼は「正直」ではなく、「誠実」な人なのです。

  医師が患者に対して、「あなたは重病ですね。この状況だとほとんど助かりませんね。」と話すのは「正直」ではあっても「誠実」ではありません。このように「正直」であることが正しくない場合はたくさん
あります。「正直」であるより「誠実」であることの方が大事なのです。

  哲学者のカントは「人は常に正直であるべきだ」と主張しました。実は友達をかくまう話はカントが用いたたとえ話です。カントはどんな場合であってもウソをついてはいけないと言っています。

  たとえ、相手が悪人であってもウソはいけないとカントは言います。そうすると、友達がひどい目にあわされてしまうかもしれません。カントは、ウソは許されないが、知っていることを必ずしもすべて話す必要はないと述べて倫理的な行動と正しい結果とのバランスを取ろうとしたのです。

  しかし、カントのように徹底的に「正直」であることにこだわると息が詰まるような気がします。“バカ正直”と呼ばれる人は「ウソはいけない」というカントのような考え方の人なのかもしれません。

  「正直」と「誠実」の使い分けに正解はありません。人生観や信念によって結論は変わってきます。「誠実」に行動したつもりでも、相手の受け取り方によっては「不誠実」に思われてしまうかもしれません。

  しかし、自分がどういう考え方をするかは意識しておくことは大切です。そうすれば、自分の基準や物の見方が適切かどうかを振り返ることができるからです。ことあるごとに自分の物の見方を振り返る習慣は「誠実」な行動のように思います。

 


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投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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