浅沼宏和ブログ

2016.12.29更新

クリステンセンの論文集からの第三弾です。

この論文では、いろいろな業界でなぜ分業化が進むのか、なぜそうした業界ではサプライヤーの力が強まる場合があるのかを説明しています。ここからアウトソーシングの基準が導き出されます。

これも顧客ニーズと製品の性能の視点から割り出されていますから、モチーフになっているのは破壊的イノベーションの理論です。なぜ、PC業界の利益がIBMからインテル、マイクロソフトに移ったのかについてのわかりやすい視点を得られます。

 第五章

シフトする収益源を先読みする

―製品ライフサイクルに伴うバリューチェーンの変化―   2002年2月

1 コア・コンピタンス(企業の中核能力)以外のものはすべてアウトソーシングすべきだというかつての主流的経営論には落とし穴がある。

2 魅力的な収益が見込める事業領域はバリューチェーン内を動いていく。その時点の視点でアウトソーシングを行った企業の多くが収益源を失った。この事態は破壊的技術の視点で理解することができる。

3 市場での競争の方法は商品進化の段階ごとに異なる。進化の初期段階では企業は商品の性能で勝負する。そして時がたち、主だった顧客ニーズが満たされると、次は利便性、カスタマイズ性、価格、融通性で競争するようになる。

4 初期段階の商品では顧客ニーズを満たすため、エンジニアは可能な限り高い性能を達成することに集中せざるを得ない。すると自社独自のコンポーネント(部品)を開発し、組み合わせるという方法が取られる。

5 こうした初期段階では垂直統合型企業であることが成功に必須の条件となる。非統合型企業ではそれぞれの企業のシステムを一つのシステムにまとめることが難しいからである。

6 ところが商品性能が向上し、一般的顧客のニーズを上回るようになると状況が一変する。基本的ニーズが満たされた顧客に対し、より柔軟性の高い商品を迅速に市場に投入し、以前よりずっと小さなニッチ市場のニーズに応えるよう商品カスタマイズが必要になる。

7 このように商品が進化した次元では、企業はモジュール方式で商品を設計し、コンポーネント(部品)とサブシステム間のインターフェースをはっきり特定する必要がある。するとインターフェースが最終的に“業界標準”へと収束する。

8 モジュール方式は素早く新商品を市場に投入するのに役立つ。一から十まで設計し直さなくても各サブシステムの改善が可能だからだ。企業は最良のサプライヤーが製造する最も優れたコンポーネントを組み合わせて個々の顧客ニーズに柔軟に応えることができる。

9 標準インターフェースを使えばシステム全体の性能の点では常に妥協せざるを得ない。しかし、商品が十分成熟し、性能を持て余し気味にしている顧客を狙う企業は、性能について多少は譲歩しても、スピードと柔軟性の点でメリットを重視する。

10 業界のプレーヤーがみな従う業界標準が確立されると垂直統合型の企業であることは成功のカギではなくなる。逆に垂直統合型であることはスピード、柔軟性、価格の点で競争上の足かせとなる。そのため業界は分業化へ向かう。

11 するとバリューチェーンの各段階をつなぐインターフェースがポイントになる。このインターフェースは初期段階では企業の垂直統合化を後押しし、最終的には産業をコンポーネント(部品)単位に分業化させる力となる。

12 分業化には3つの要件が必要。①外部調達を成立させる条件を把握する ②条件に合致するかを検証できる ③効果を予想できる(予想外の相互依存性がないこと)

13 顧客が機能性よりスピードや利便性を重視するようになるとゲームの流れが変わり、利益の源泉が移る。その基本原則は「バリューチェーンの中で各段階との相互依存性を高めたところが一番儲かる」である。

14 分業が進んでモジュール方式が一般化した業界では競合企業との差別化が難しい。そこでサプライヤーに圧力をかけて高性能・低コストのコンポーネント開発を急がせる。

15 モジュール方式で商品設計・製造を行っているサプライヤーは顧客企業の要求にこたえようと性能面での強みを極限まで追求する。するとサプライヤーは相互依存性・独自性が高いアーキテクチャを創造せざるを得なくなる。すると顧客企業に対するサプライヤーの立場が強くなる。

16 収益の上がる事業の領域、そうでない領域の違いは何か。利益が集まるのは直接の顧客ニーズにまだ十分に応えていない段階のところである。この段階の企業は顧客ニーズにこたえようと独自のアーキテクチャを生み出すからである。

17 つまり、十分に性能が向上していない領域をアウトソーシングすると、その事業領域で将来的に収益が上がるようになると自社の事業領域の利益が失われる。

18 垂直統合型企業はやり直しのきかないアウトソーシング、事業売却を行うのではなく、柔軟に事業を組み合わせたり、切り離したりするのであれば非統合型企業よりも景気の変動を乗り越えやすい。こうした事例はPC業界によく見られる。

19 自動車業界ではモジュール方式が採用されている。メーカーはトップクラスの少数のサプライヤーからサブシステムを調達する。ブレーキ、ハンドル、シャーシなど各サブシステムのアーキテクチャはメーカーの厳しい要求に応えようとして相互依存性がますます高まっている。つまりメーカーではなくサプライヤーの収益性が高まっている。

20 自動車メーカーはPC業界のデル社のように振る舞う必要がある。徹底的に俊敏、柔軟、そして顧客にとって便利になることである。

21 現在好調な企業の経営者は「大きな利益を生み出す力がどこか別のところにシフトするかもしれない」と考えている場合ではない。「いつ」シフトするかを考えるのだ。

 

その1

その2

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2016.12.28更新

クリステンセンのHBS経営論集の論文の第二弾です。
この論文では破壊的イノベーションを経営資源、プロセス、価値基準という視点で分析し、なぜ業界リーダーが破壊的イノベーションに対応できないかを示し、その処方箋も併せて提示しています。
特に組織についての提言は、落とし穴にはまりがちな組織改革のチェックリストとして重要だと思います。結論自体はドラッカーのイノベーション論とそんなにギャップは感じません。

「クリステンセン経営論」ダイヤモンド社 第三章
イノベーションのジレンマへの挑戦
―リーダー企業は破壊的変化にどう対処すべきか―    2000年9月

1. 大企業のマネジャーは破壊的変化への対応にことごとく失敗してきた。その理由はおそらくマネジャーには組織の能力について注意深く考える習慣がないためだ

2. 同程度に有能な人材グループを別々の組織で働かせても成果に差が出る場合、その原因は組織の能力自体にあると考えられる。組織の能力はメンバーの資質、その他の経営資源とは別物と考えなければならない。

3. 企業を継続的に成功させるには個々の人材を評価するだけではなく、「組織全体で何ができ、何ができないか」という能力を別途に評価する必要がある。

4. 破壊的イノベーションに対応する最悪のアプローチは現行組織を抜本的に変えてしまうことかもしれない。企業を変身させるつもりがそれまで企業を支えていた能力を破壊してしまうこともある。

5. 組織に何ができ、何ができないかを規定するのは、経営資源、プロセス、価値基準の三つの要素である。この三つの視点から組織能力を評価する。

6. 経営資源について。「当社に何ができるか」を自問した時に経営資源に答えを求めることが多い。しかし、経営資源の分析のみでは組織の能力の全容は判断できない。

7. プロセスとは経営資源を商品やサービスという一段高い価値に変容させるための相互作用、調整、コミュニケーション、意思決定のパターンを指す。

8. プロセスの本質は社員が常に業務を一貫した方法で成し遂げられるように設定することにある。これは経営者にとってジレンマにもなる。プロセスは変更することを前提にしていない。もし変更の必要が生じても簡単には変えられない仕組みになっている。

9. ある仕事を成し遂げるためのプロセスはそれ以外の仕事を行うことを不可能にする。そして企業にとって最も重要なプロセスが明確でわかりやすいものであるとは限らない。逆に目につきにくい背後のプロセスが重要であることも多い。

10. 変化に対応する能力について最も深刻な課題は経営資源の配分、企画と予算の調整といった意思決定プロセスに潜んでいる。このプロセスが必ずしも明確ではないことがある。

11. 価値基準とは重要な事や優先すべきことを判断するための基準。企業規模が大きくなるほど、組織全体の社員を教育し、戦略方針やビジネスモデルとの整合性を取りながら、一人一人が重要度を判断できるようにすることが、より大切になる。

12. 組織に一貫性のある明確な価値基準が浸透しているかは企業経営の優劣を測る重要な尺度。

13. 多くの企業が注目する価値基準は収益性と市場規模の二つ。この二つの価値基準がほころびると企業が破壊的変化にうまく対応する能力は徐々に失われる。

14. ①収益性についての価値基準を明確にすることが必要。例えばハイエンド市場を相手にすれば間接費が上がり、従前の粗利益率では不十分になる。トヨタが北米でハイエンド市場に進出するためローエンド市場からの撤退を決めた事例など。

15. ②市場規模についての価値基準はビジネスチャンスに関わる。小企業なら十分な市場も大企業では食い足りないことが多い。企業規模が大きくなると小規模の新興市場に参入する能力を失っていく。この能力喪失は経営資源の変化によるのではなく、むしろ価値基準の変化による。

16. 企業の成長の初期段階では、経営資源、特に人材の影響が大きい。要となる人材が一人二人、組織に加わるか離脱するだけで企業の業績に多大な影響を及ぼすことが多い。しかし、時がたつと組織能力の重心はプロセスと価値基準へとシフトしていく。

17. まず恒常的業務をこなすうちにプロセスが固まってくる。ビジネスモデルがはっきりした形を取り始め、業務の優先順位が明確になる。そして次第に価値基準が形成される。

18. 企業がたった一つの画期的商品の成功によって上場を果たし、その直後に失速するケースが多い。その原因の多くは当初は個々のエンジニアの能力が成果を生むが、継続的に商品を生むプロセス開発に失敗することにある。

19. 次々と人材が入れ替わる大手コンサルティング会社が質の高い仕事を維持している理由は、コア・ケイパビリティ(中核能力)が経営資源にではなく、むしろプロセスと価値基準にあるため。

20. 企業の誕生から成長期にかけてプロセスと価値基準が形成される段階では経営者が与える影響は絶大。社員の仕事の仕方、組織の優先事項について経営者には明確な持論がある。

21. 創業者の判断に誤りがあれば失敗する可能性は高い。しかし、健全な判断がなされれば創業者の問題解決、意思決定の方法が正しいことを社員は目の当たりにし、体得していく。こうしてプロセスができあがっていく。

22. 同様に、創業者の考えを反映した判断基準に従って経営資源が配分され、財務的にも成功すれば、その実績を中心に企業としての価値基準が形成される。

23. 企業が成熟すると社員はこれまで日常的に行い、成功してきたプロセスや判断基準こそが仕事を行う上で最も正しい方法と思い込むようになる。これが組織文化を形成する。

24. 組織文化があれば社員に自律的ながらも一貫した行動をとらせることができる。組織文化が強力な管理ツールになる。

25. このように組織に何ができ、何ができないかを規定するものは時と共に変化する。出発点は経営資源だが、次に目に見え、はっきり表現されたプロセスと価値基準へと重心がシフトする。

26. 経営資源、プロセス、価値基準のどれを経営能力の基盤にしている場合でも、成功企業は市場の持続的変化に対応するのに長けている。この変化を持続的イノベーションという。しかし、企業が問題に突き当たるのは、市場での革新的変化に対応したり、破壊的イノベーションに対応したりする場合である。

27. 持続的イノベーションを開発し、導入するのは、ほぼ決まって業界のリーダー企業である。持続的イノベーションにおいてリーダー企業を打倒することは難しい。

28. 新商品や新サービスで新市場を創造する破壊的イノベーションは頻繁には起こらない。だから、どの企業にもこれに対処するプロセスを持たない。

29. 破壊的イノベーションの利益率は必ずと言ってよいほど低く、魅力的商品ではないため大企業の価値基準とは合致しない。だから業界のリーダー的企業は破壊的イノベーションに事業機会を見出せない。

30. 経営資源、プロセス、価値基準のフレームワークによってリーダー企業が破壊的イノベーションに乗り出さない理由がわかる。つまり業界のリーダー企業は持続的技術を開発し、導入するように組織が出来上がっているということ。

31. リーダー的企業が破壊的変化への適応能力を創造する方法は3つ。①内部に新たな組織構造、プロセスを開発する ②既存組織から独立した組織を作る ③新たな課題にふさわしいプロセスと価値基準を持つ別組織を買収する

32. 残念ながら、ほとんどの企業がオールマイティ型の組織戦略を取る。つまり軽量チームもしくは職能別組織で規模も性質も異なる全ての課題に臨もうとする。しかし、この方式はすでに固まった組織能力を活用するやり方である。

33. 逆に、重量チームを信奉しすぎる企業も多いが、理想的にはそれぞれのプロジェクトに必要とするプロセス、価値基準とを合わせて、チーム構造や社内・社外で行うか等を決めるべきである。

 

適切な組織構造

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2016.12.27更新

クリステンセン論文集の第一章です。「破壊的イノベーション」の基本論文です。優良企業であればあるほど、破壊的イノベーションには対処できなくなるという結論で有名です。また、その理論の応用範囲も想像以上に広く、およそイノベーションを考える人であれば、知っておくべき内容でしょう。

クリステンセン論文集

イノベーションのジレンマ
―大企業が陥る「破壊的技術」の罠―   1995年7月

既存技術と破壊的技術の例―馬車と自動車、真空管と半導体、メインフレームとPC、フィルム写真とデジカメ、デジカメとスマホ・携帯の写真機能、固定電話と携帯電話など

1. ビジネス界では業界大手が技術や市場の変化に対応できずに失敗するパターンが良くみられる。多くの場合、それらの企業は既存顧客の意見に耳を傾け、彼らの要求に積極的に答えようとした結果、後に手痛いダメージを被った。

2. 優良企業には合理的・分析的な意思決定プロセスがある。そのプロセスでは既存市場の顧客ニーズに注いでいる経営資源をよくわからない市場や顧客に振り向けることはできない。

3. 優良企業の多くは、初めのうちは主要顧客のニーズに合致しない新技術をなおざりにすることで後に大きなダメージを受けた。

4. 優良企業に破壊的ダメージを与える技術変化には二つの特徴がある。①新技術の製品性能が当初は低く、既存顧客はこの性能の違いに価値を認めない。 ②この新技術が後に既存顧客も価値を認める性能に達するので既存市場が浸食される。

5. 破壊的技術には主要顧客が価値を認めてきた特性とはまったく異なる特性があり、既存顧客が性能面で重視する点が劣ることが多い。そのため既存顧客のニーズに対応すればするほど破壊的技術をなおざりにせざるを得なくなる。

6. 当初は既存製品に劣り、新市場でしか通用しない技術が、やがて既存市場で業界リーダーを脅かすようになるのはなぜか。一般的に破壊的技術は優良企業にとって経済的魅力に乏しい。一方、新規参入者は高コスト構造ではないため、新市場は十分魅力的。こうした企業は新市場に足がかりを築き、その技術性能が向上させて、高コスト構造の大手企業の縄張りである上位市場を視野に入れるようになる。

7. 優良企業は既存顧客のニーズに合致しない破壊的技術の将来性には注意しなければならない。しかし、この流れを認識することと、状況を打破する方法を見つけることは別物。多くの業界では優良企業が破壊的技術に対処できず同じ失敗を繰り返している。

8. 問題は過去の成功体験をそのまま繰り返すことにある。成功を収めた企業ほど既存顧客が望まない技術や利益率の低い案件に資源を傾けることができない。

9. 破壊的技術が登場した時に優良企業はどう対処すべきか。まずは真の脅威となる破壊的技術を見極めること。ただし既存の重要顧客に意見を求めるのは間違い。破壊的技術の顧客は既存顧客が求めるよりはるか下の性能を求めている。彼らの視点は既存顧客とまったく違う。

10. 重要なのは破壊的技術が初期の低い性能からどの程度の速度で性能向上するかを知る事。それがいつ主力市場で求められる性能に追いつくかを見極める必要がある。

11. 破壊的技術を見極めるには、顧客は誰か、どのような顧客がどのような製品性能を重視するかを想像してみるとよい。

12. 優良企業が新技術を扱うには自社から独立した組織に行わせるべき。破壊的技術の利益率は当初は低く、また新規顧客特有のニーズに応える必要があるため。

13. 新規技術にうまく対応し、新市場で成功を収めても主力事業に統合しない方が良い。破壊的技術は将来的に既存技術を侵食する可能性があり、同一組織でマネジメントするには向かない。

14. 破壊的技術で成功するには、小規模の注文でもやる気になり、その存在すら定かでない市場にコストをかけずに参入し、未開拓市場でも利益が出るように固定費を抑えた組織で戦略的にマネジメントすることが必要。

論文では事例としてHDD業界における著しく短サイクルでの破壊的イノベーションの発生を取り上げています。数年単位で覇権を握る企業が入れ替わる業界は多くはないと思いますが、あらゆる業界において起きうる事態だと考えられます。
この論文集の破壊的イノベーションという視点は非常に応用範囲が広く、後に続く論文もこのモチーフを発展させています。

HDD業界における破壊的イノベーション

 

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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