浅沼宏和ブログ

2021.01.19更新

テレワーク時代の最大の問題点は仕事の自己管理です。テレワークによって生産性が低下したという報告はその難しさを示しています。

テレワークではチームのメンバーが同じ場所にいないことで、空気感が伝わらないことが大きな問題になります。日本の会社では仕事の目的や役割分担が明確でないことが多く、そうしたものが「場」を共有することで暗黙のうちに決まっていく特徴があるからです。

仕事についての明確な指示があるように見える場合でも、具体的な方法や指示の行間のようなものがあいまいだったりするのです。テレワークでは仕事の目的、満たすべき条件、手順などを詳細にすることがより重要になります。考え方としてはプロジェクトマネジメントと同じですね。

しかし、最初から上司、部下、同僚との間で物の見方がそろうことはあまりありません。物の見方のズレは逐次調整していかなければなりません。その際に重要なのはフィードバックです。自分の仕事の適切性はフィードバックされた情報と比較することで明らかになります。目的、成果に関するフィードバック情報を適切に本人に伝達されるような仕組みが必要になります。

目的は何か、何が適切なフィードバック情報なのか、そして実際にどんなフィードバックを行ったか、こうした問いに対する話し合いがコミュニケーションにおける中心的なテーマになっていくのです。

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2021.01.13更新

新型コロナの爆発的広がりの中でテレワークの導入が一気に進みました。しかし、多くの企業から聞かれるのは「テレワークによって生産性が低下した」という感想です。

これは、学生時代の勉強を考えてみるとよくわかります。自宅で一人で勉強するとはかどらないため図書館や自習室に通う人が多いのです。学生時代の勉強と在宅ワークは似ている点が多いのです。したがってハイブリッドワークライフのカギを握るのは在宅ワークにおける生産性向上になります。

受験生のモチベーションは、その受験勉強の先にあるもの、つまり志望校への合格、ひいては自分の将来についてのビジョンと密接に関係しています。単に静かな場所に移動すれば勉強に対するやる気が出るというわけではありません。本質的には、その勉強が何につながるのかが問題になるわけです。

受験の場合、入試合格という長期目標に対して今日の過ごし方の目標設定を行うことになります。「今日、図書館で数学のテキストを10ページ、英文解釈の問題を3問解こう」というプログラムは、明日の勉強、今週の勉強、今月の勉強、そして最終的な目標である受験から割り出し、実行しようとするものです。

ところが、実際に勉強し始めると集中できず、「今日はやる気が出ないな。数学は3ページぐらいでいいや」という感じになったりします。つまり、生産性が低下したのです。この繰り返しによって第一志望に合格する実力が身につかず、志望校のランクを下げざるを得なくなったりするのです。

ビジネスパーソンのテレワークにも同じ問題が付きまとっています。やるべき仕事に向かうように督促される環境において、いかにして意欲を持ち、実際の行動につなげられるかが問われるわけです。

テレワークには学生時代の受験勉強と同様の主体性が問われるのです。仕事に対する主体性はハイブリッドワークの重要な論点なのです。

次回は、この問題についてのアプローチを考えてみたいと思います。

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2021.01.05更新

日経ビジネス2020年12月21号では企業の謝罪のあり方が特集されていました。
その中に、商船三井、東証のトラブル対応の事例がありました。

商船三井はモーリシャス沖の船舶事故での原油流出問題について、法的責任はない(責任は船主にある)が、社会的責任の観点から対策費10億円を拠出、20人の社員を現地に派遣し、モーリシャス政府から感謝されたという事例です。

東証のケースは、10月に起きたシステムダウンの際、当日中に謝罪会見を行い全面的に責任を認めた姿勢が好意的な反応を呼んだというものでした。実は東証は2005年にも同様の事故を起こしていたのですが、当時の記者会見では「責任はシステムを作ったベンダーにある」と主張して世間の怒りを招いた経験がありました。その反省から会見のあり方を変えたわけです。

記事では、SDGsの時代の謝罪の良い例であるとの締めくくりをしています。要するに法的責任と社会的責任は違うという結論です。

実は、これは古くて新しい問題です。CSR元年と言われた2003年頃にはCSR専門家の間では常識化していた「コンプライアンスとは法令遵守ではなく法令『等』遵守であり、その『等』には社会常識が含まれる」という原則です。
当時、外注先に起因する問題についてナイキは責任はないと主張し大炎上しました(ナイキ・スウェットショップ事件)。

それに対し、ソニーは自社の責任を全面的に認めたことからヨーロッパでの評価を高め、CSRのリーダー企業という評判を勝ち得ました(ソニー・プレイステーション事件)。

下のスライドは14、5年ぐらい前に私がCSRの原則についてプレゼンした際の資料です。

日経ビジネスの記事では、今や古典となったこの二つのケースに触れられていませんが、法的責任と社会的責任の違いを明確に意識することがSDGsの第一歩になることは変わりありません。

現代社会では「評判」のもたらす経済的影響力が大きく、それがリスクマネジメントの中心になります。これを「レピュテーション・リスク」といいます。
レピュテーション・リスクの特徴は、いくら正しいことを行っているつもりでも、それが正しく伝わらなければ経済的に大きなダメージになる恐れがあるということです。
SDGsにはレピュテーション・リスクの一環という側面があり、「世間からはどう見えるか」という視点が重要になります。

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投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

2021.01.04更新

 知識労働と肉体労働との違いにいち早く注目したのはドラッカーでした。肉体労働(マニュアルワーク)がいわゆる「9時から5時まで」といったタイプの仕事であるのに対し、知識労働は仕事の成果で評価される仕事です。肉体労働では仕事のプロセスの管理が重要ですが、知識労働では成果管理が重要になります。

 しかし、今では純粋な肉体労働、知識労働は少なくなっています。一人の労働者が肉体労働と知識労働の両方をこなすようになったのです。ドラッカーは、肉体労働と知識労働の両方を行っている労働者を「テクノロジスト」と呼びました。そして、先進国ではこのテクノロジストの仕事の生産性を高めることが重要な課題だと主張したのです。ドラッカーの主張は時代をはるかに先取りするものだったのです。

 ドラッカーは例えば外科医はテクノロジストであると述べています。外科医の主な仕事を診断と手術に分けた場合、診断は知識労働に当たるといいます。しかし、手術は肉体労働だというのです。診断は仕事のゴールを明確に定義するために専門知識を使います。病状を観察し、どのような治療を行うかを決める仕事なのです。

 これに対して手術は具体的な計画に基づき明確な手順を一つ一つ実行する仕事です。とても高度な専門知識に支えられてはいますが、本質的には肉体労働なのだというのです。ドラッカーは、この二つのタイプの仕事は分けて、それぞれの仕事特有の原理に従って管理したほうが良いと主張したのです。

 ハイブリッドワークでもテクノロジストの仕事の生産性向上は大きな目標となります。現在ではオンラインでの仕事の方法が模索されていますが、その場合、肉体労働(マニュアルワーク)と知識労働とを区別することが一つのポイントになります。特に、知識労働の最終的な成果をどれだけ具体的に定義できるかが生産性に大きな影響をもたらすことでしょう。

 しかし、肉体労働(マニュアルワーク)の生産性向上も重要です。上司や同僚の集まる職場に出向かない場合、能率が落ちがちになるというデータも出始めています。こうした仕事は量で判断されるものではありますが、その生産性については、環境変化や心理面での影響が視野に入れられることになるでしょう。おそらくこうした仕事はバカンスを楽しみながら仕事を行うというスタイルにはなじまないことでしょう。

 ハイブリッドワークの課題についてはまだまだ模索が必要となりますが、その際にテクノロジストというコンセプトを意識することは必須となるでしょう。

投稿者: 株式会社TMAコンサルティング

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