先週、拙著に事例としてご登場いただいた日本代表バスケコーチの鈴木良和氏の講演を聴講しました。バスケ指導者を対象にした講演ですが、成果をあげる行動原則の実践法として有益なものでした。
演題は「選手が失敗を恐れなくなるマインドセット」です。
講演の概要をまとめると、鈴木氏は、まずミスと失敗の区別が大前提というところから出発し、ミスをなくし、適切に失敗を増やすことが重要とします。
当たり前のことを間違えるのがミス、新たなことや自分のスキルが及ばないことにチャレンジし、うまくいかないことが失敗です。失敗を積み重ねることでより大きな成果があがるようになるわけです。
その上で、失敗を恐れないマインドセットをどのように整えるかについて論を進めます。
バスケには技術、戦術、心理状態という3つの次元があり、技術や戦術は体に刷り込んでしまい、頭を使わなくて済むようにし、心理状態により多くのエネルギーを向けることができるようにすると述べます。鈴木氏はこれを「心のアジリティ(敏捷性)」と説明します。
試合では正解のない複雑・不確実な状況が続くため、心のアジリティの差が結果につながるのです。技術、戦術に気を取られていると状況判断が遅くなるのです。
例えば、超一流のサッカー選手はドリブルの際に思考力の10%しか使わないそうです。並みの選手は2~3割使い、アマチュアはもっと頭を使っているそうです。
脳の処理能力は有限なので、当たり前のことを考えずにできるようにすることが大事と述べます。ミスしないためには、当たり前のことを無意識にできるまで練習することが大切です。
その上で、失敗についてのマインドセットについて、正しい物の見方を持つことを強調します。バスケは7割失敗するスポーツ(野球のバッティングに近いのかもしれません)だそうで、失敗についてのマインドセットが極めて重要になると言います。
そして「失敗しないこと」ではなく、「失敗との向き合い方をうまくする」ことが大切だといいます。
例えば、シュートを失敗して「くやしい」と思う場合、まず「チャレンジできた。これでいいんだ。」と考え、すぐに「全力で戻るんだ」と頭を切り替えるのが大事とのことです。失敗した後の初めの小さな一歩を意識するということです。
パフォーマンスをあげるには言葉の力が重要で、「他者に掛ける言葉は自分に掛ける言葉と同じ」なので、「何やってんだよ!」というのではなく、「君ならできる!」といった言い方をするのが大切だと言います。使う言葉が無意識にマインドセットを作っていくからです。
また、聴講者からの質疑の中で、「声を出さない選手がいる」については、「声を出さない選手は『声を出すことが恥ずかしい』と思っている。常に声を出す選手は『声を出さないとチームに貢献できていないので恥ずかしい』と思っている」と答え、マインドセットの問題として説明していました。
また、重要な場面で決断ができないキャプテンについては、「責任感が強いために『失敗できない』と考え決断できないのかもしれない。だけど、『失敗は問題ではない。決断できないことがチームに迷惑をかけることになる』というマインドセットを持たせることが重要と指摘されていました。
鈴木氏の考え方はビジネスで成果をあげることについても、そのまま当てはまる有益なものであると言えます。